名古屋地方裁判所 平成5年(ワ)3245号 判決 1995年9月28日
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金四九三四万八三八一円及び内金一一一二万七六五六円に対する平成二年一月一日から、内金三八二二万〇七二五円に対する同年八月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 第1項につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1(1) 原告は、平成元年一二月一一日、被告から、ゼンチクワラント五〇ワラントを代金一一一二万七六五六円で購入し、被告に対し、右代金を支払った(以下「本件取引一」という)。
(2) 原告は、平成二年七月一六日、被告から、大京ワラント一〇〇ワラントを代金一八九二万四八二五円で購入し、被告に対し、右代金を支払った(「本件取引二」という)。
(3) 原告は、同月一七日、被告から、同ワラント一〇〇ワラント(以下右(1)及び(2)の各ワラントと一括して「本件各ワラント」という)を代金一九二九万五九〇〇円で購入し、被告に対し、右代金を支払った(以下「本件取引三」といい、本件取引一、二と併せて「本件各取引」という)。
2 錯誤無効
原告は、本件各取引がすべて普通の株式の売買であると誤信して取引してきたものであり、右各取引の商品が株式と異なるワラントというハイリスクで、有効期間が経過すれば紙屑同然の無価値の存在になる極めて投機的で危険な要素を含んだ性質の商品であることを説明されていれば、絶対に購入の意思を表示しなかったものである。よって、本件各取引における原告の意思表示には右の点につき要素の錯誤があるから、本件各取引は無効である。
3 詐欺取消
(1) 被告の従業員の安藤幸一(以下「安藤」という)は、本件各取引に際し、原告に対し、右各取引の商品が真実はワラントというハイリスクで、有効期間が経過すれば紙屑同然の無価値の存在になる極めて投機的で危険な要素を含んだ性質の商品であるにもかかわらず、単に一種の株式であるように告げて原告を欺き、その旨誤信させた。
(2) 原告は、本件訴状をもって本件各取引を取り消す旨の意思表示をし、右訴状は平成五年九月三〇日被告に到達した。
4 不法行為(ないし債務不履行)
(1) 原告は、安藤の次のような違法行為により、本件各ワラントを購入させられた。
① 説明義務違反
原告は、開業医であり、毎日多数の患者の診察にかまけて、本件各ワラントはもちろん証券投資に関する知識にうとかった。
このような原告に対しては、証券会社である被告には、ワラントのようななじみのなく難解かつ危険な商品については、その商品構造、危険性の中身、個別銘柄の権利内容といった投資判断の基本的事項を把握するに十分な説明をする義務があるにもかかわらず、安藤は、原告に対し、本件各ワラントについての本件各取引が店頭取引であり市場性が薄いこと、為替レートによる円換算で為替リスクがあること、原券が外国保管でその取寄せが難しく被告以外との取引が事実上できないこと、相場の動きをどこで知ることができるかといったワラント取引の基本的仕組みや、一定の権利行使期間を過ぎれば紙屑同然の無価値なものになるといったワラントの危険性についてなんら説明しなかった。
② 断定的判断の提供
安藤は、本件ゼンチクワラント取引の勧誘に際し、牛肉の自由化という良い材料があるから短期に必ず儲かると述べ、また本件大京ワラント取引勧誘に当たっては、原告が強くその購入を断っていたにもかかわらず、「他社の知らない良い材料があるからこれまでの損をこれで儲けて取り返すといいですよ」「絶対損させることはありません。うちの会社を信用してください」旨述べて断定的判断を提供した。これは平成二年法律第四三号による改正前の証券取引法(以下単に「証券取引法」という)五〇条一項一号に違反する。
(2) 安藤の右(1)の違法行為は、被告の事業の執行についてなされたものであるから、被告は、民法七一五条一項により、原告に対し、原告が被った損害を賠償すべき義務がある。
(3) 被告は、原告に対し、前記のとおり本件各ワラントが極めてハイリスクの商品であることから、本件各取引の勧誘に際し、その仕組みや危険性を十分説明する義務が存したにもかかわらず、これに反しむしろ前記(1)②のように虚偽の事実を告知して原告を錯誤に陥らせ、無効な契約を締結させたものであり、被告には契約締結上の過失があり、原告が本件各取引によって被った損害を賠償すべき義務がある。
(4) 原告の損害
前記1(1)のゼンチクワラントは、権利行使されることなく権利行使期間が経過したため現在無価値となり、同1(2)及び(3)の大京ワラントについても、権利行使されることなく権利行使期間が経過したため現在無価値となった。
従って、原告は、被告に支払った前記ゼンチクワラント代金一一一二万七六五六円及び大京ワラント代金合計三八二二万〇七二五円の合計四九三四万八三八一円の損害を被った。
5 よって、原告は、被告に対し、不当利得返還請求ないし不法行為(債務不履行)に基づく損害賠償請求として、金四九三四万八三八一円及び内金一一一二万七六五六円に対する代金支払後である平成二年一月一日から、内金三八二二万〇七二五円に対する代金支払後である同年八月一日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1(1)ないし(3)の事実は認める。
2 同2、3(1)及び4(1)ないし(4)の事実は否認し、その主張は争う。
三 被告の主張
原告は、大阪大学医学部を卒業し病院を経営する医者であり、十分な資産を有し、投資経験も長く証券投資に関する知識、経験とも十分であった。また原告は、本件各ワラント取引を行う前に、すでに安藤からワラントの基本的特性及び危険性について十分説明を受け、ワラントについての説明書の交付も受けているものであり、右説明書の内容を確認した旨の確認書に自ら署名押印して被告にこれを交付している。
四 被告の主張に対する認否
被告の主張事実のうち、原告が大阪大学医学部を卒業し病院を経営する医者であることは認め、その余の事実は否認する。原告は、本件各取引前に被告からワラントについての説明書の交付を受けていないし、本件各取引前に右説明書の内容を確認した旨の確認書に自ら署名押印して被告にこれを交付したことは絶対にない。
第三 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等の目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1(1)ないし(3)の事実は当事者間に争いがない。
二 右争いのない請求原因1(1)ないし(3)の事実に証拠(甲三(但し後記信用できない部分を除く)、乙一ないし三一(枝番を含む)、証人安藤幸一、原告本人(但し後記信用できない部分を除く))及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が、認められる。
1 原告は、大阪大学医学部を卒業し、現在病院を経営しており、右病院の一年間の売上は一億四〇〇〇万円位である。
2 原告は、遅くとも昭和五一年ころから二億円位の資金で日本の四大証券会社等を通じて証券取引をし、また昭和五六年ころから信用取引も行っていた。
3 原告従業員の安藤は、被告が出したダイレクトメールに対し原告から返事が来たのがきっかけで原告宅を訪問するようになり、ここに原告、被告間の証券取引が開始された。そして原告は、平成元年七月から平成五年三月までの間に、別表記載のとおり、被告を通じ売買回数合計一二四回、買入代金合計約七億五〇〇〇万円の株式等の証券取引を行った。原告は、平成五年から、被告を通じ信用取引も行っている。
4 安藤は、月に一、二度位の割合で原告宅を訪問し、原告との間で、一回につき四〇分から一時間位、今後の株式の動向等について話し合っていた。取引の勧誘や注文等については互いに主に電話を利用していたが、原告は安藤に対し毎日のように電話をし、安藤に株価や市場の動きを聞いたりしていた。安藤は、持ち株の現在量や市場価格等が書かれた表などを持参して原告に取引を勧めるなどし、原告から全体の七、八割の取引についてはその了承を得ていたが、安藤が勧めた取引を原告が断わることもあった。現に、原告は、後記バンダイワラントにつき一度は安藤の勧めでこれを購入したが、その後の安藤の右ワラントについての再度の勧誘についてはこれを拒絶している。また原告は、平成二年三月一日から同年六月一二日までの間、同年八月三日から平成三年一月三〇日までの間、同年三月一五日から同年八月一五日までの間及び同月二三日から同年一一月一九日までの間は、被告会社とは全く取引を行っていない。原告自身、安藤はなんでもかんでも取引を押売りするタイプではないと思っていた。一方安藤は、原告の証券に対する知識は、個人投資家としては平均的レベルにあると感じていたが、原告は、テレビの株式市況番組は毎日見ていた。
5 安藤は、平成元年八月下旬か同年九月上旬ころ、原告に対し電話で、馴染みが薄いかもしれないがなどと言ってバンダイのワラント取引を勧誘し、その後原告宅を訪れ、原告に対し、ワラントについて、権利であって株式ではないこと、株価の動きによって理論価格や実際のワラントの価格がどのように動くかといったワラントの値の動き方のこと、権利行使価格のこと等についてメモを書きながら説明した上(その際安藤は原告から「本当に儲かるのか」と言われたが、原告からワラント自体に対する質問を受けたことはなかった)、原告に対し、「後で読んで下さい」と言って外国新株引受権証券(外貨建ワラント)取引説明書(乙一、以下「本件説明書」という)を手渡し、さらに「私は、貴社から受領した外国新株引受権証券(外貨建ワラント)取引説明書の内容を確認し、私の判断と責任において外国新株引受権証券の取引を行います」と記載された外国新株引受権証券の取引に関する確認書(乙二、以下「本件確認書」という)に原告の署名捺印を得て、その交付を受けた。右説明書には、ワラントの内容及び売買の仕組み、ワラントには権利行使期間があってこれが徒過したときはワラントは無価値になること、ワラントの価格は理論上株価に連動するがその変動率は株式に比べて大きくなる傾向にあること、外貨建ワラントの場合は外国為替の影響も考慮に入れる必要があること等が記載されていた。
6 原告は、同年九月一九日、バンダイワラント一〇〇ワラントを購入、これを売却して三一二万六〇九八円の利益を得たが、その後も安藤の勧めで、本件取引一がなされるまでの間に、野村証券、常盤興産、ニコン、日本ハムの各ワラントを購入(その都度安藤は原告に当該ワラントの行使価格や行使期間等につき説明を行っていた)、これを売却し、野村証券以外のワラントについてはこれにより利益を得た。
7 安藤は、原告に対し、牛肉の自由化というよい材料があるなどと言って本件ゼンチクワラントの購入を勧め、同年一二月一一日、原告、被告間で、本件取引一が行われた。
8 安藤は、平成二年七月、原告に対し、本件大京ワラントを勧め、当初原告はその購入を断っていたが、当時大京が株式の無償交付をしていたこともあり、二、三回勧誘を行った後原告の承諾を得、同年一六日及び同月一七日、原告、被告間で、本件取引二及び三が行われた。
9 被告は、本件各ワラント取引に関し、原告に対し、取引報告書及び受渡計算書を発送し、当該取引の成立及び決済の状況を報告するとともに、ほぼ半年ごとに原告に残高照合通知書を送付し、原告が本件各ワラントを保有している旨を報告していたが、原告が右各書類を受領した後、原告から、本件各取引につき苦情や異議の申立てを受けたことはなかった(原告自身、右残高照合通知書に対する回答書に「ゼンチクワラン」なる文字を記入している)。安藤は、本件各ワラントの価格については、原告宅に電話した際にこれを伝えており、原告も、新聞やテレビを見て本件各ワラントに関する株価の動きについては関心を持っていた。なお原告は、平成元年九月一九日、一方でバンダイのワラントを購入するとともに他方で同社の株式を売却したり、同年一〇月九日、一方で野村証券のワラントを売却するとともに他方では同社の株式を購入したりするなど、同じ日に同じ会社のワラントと株式の取引を同時にしたりしていた。
10 安藤は、平成四年六月になって、原告から、ワラントの説明を詳しく受けていないとのクレームを受け、同年七月三日、当時の安原支店長と一緒に原告宅に赴いた。原告は、その席で損失の補填を求めたが、右支店長はこれを拒絶した。結局このまま取引を続け少しずつでも損を取り戻そうとの話になった。
以上の事実が認められ、甲三の記載及び原告本人尋問の結果中右認定に反する記載及び供述部分はにわかに信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
ところで原告は、原告は本件各取引前に被告から本件説明書(乙一)を受け取ったり、本件確認書(乙二)に署名押印したことはなく、原告が右確認書に署名押印したのは、安藤が原告の求めで安原支店長と一緒に原告宅に赴き、原告が同人らに対し多大な損害を受けたなどと言って詰問した平成四年七月三日のことである旨主張し、甲三の記載ないし原告本人尋問の結果中には「‥原告が、騙されて多大な損害を受けたがどうしてくれるのだと詰問すると、弁償は法律で禁止されていてできないなどと弁解しはじめた。ちょうどその時、看護婦長が往診の催促に来たのをきっかけに二人は席を立った。そして支店長が部屋を出る際、安藤に命じ今日来たことを報告しなければならないからと言い一枚の紙を取り出し、忙しいところすみませんが名前だけで結構ですからと言って差し出した。私が名前を書き印を押すと、忙しいですから日時はこちらで書きますからと言って紙を取り上げて帰っていった。そんな状態であったので私は内容をろくろく読みもしないで署名して渡した」旨右主張にそう記載ないし供述部分が存する。確かに安藤自身、証人尋問の中で、本件確認書(乙二)の日付欄に日付(平成元年九月一日)を書き入れたのが誰であるか記憶にない旨証言しているが、証拠(証人安藤幸一)によれば、安藤は、右確認書を原告から受け取った後、被告会社に戻りこれを被告会社の経理部に提出し、経理部は右確認書に日付をタイムレコーダーで打刻したが、右確認書には「'899--1 14:18」と打刻されていること、右確認書の書式は平成元年当時使われていた書式であり、原告がそれが作成されたと主張する平成四年当時は、右書式が変更され別の書式(「国内新株引受権及び外国新株引受権の取引に関する確認書」との題名が付されているもの)が使用されていることが認められること、そもそも、原告が安藤や支店長に対し多大な損害を受けたなどと言って詰問している状況下で、今日来たことを報告しなければならないから名前だけ書いてくれとの支店長の求めに簡単に応じ、言われるままに、「本件説明書(乙一)の内容を確認し自己の判断と責任において外国新株引受権証券の取引を行う」との重要な内容が記載された、たった二行の文章をろくに読まずに署名押印したとする原告の前記供述は不自然の感を払拭しきれないこと等の事情に照らすと、本件確認書が作成されたのが平成四年七月三日であるとする原告の前記供述部分はにわかに信用できないものである。
そこで以上の認定事実を前提に原告の各主張について検討する。
三 原告の錯誤無効の主張について
原告は、錯誤無効の主張の前提として、原告が本件各取引につきすべて普通の株式の売買であると誤信して取引してきたものである旨主張し、甲三の記載及び原告本人尋問の結果中には右主張にそう記載及び供述部分が存するが、前記二の認定事実によれば、原告は、ワラントの取引を始める前に、安藤から口頭で(安藤においてメモ書きしながら)ワラントについての説明を受け、本件説明書の交付も受けていること、原告は、本件各ワラント取引に関し、被告から、取引報告書、受渡計算書や残高照合通知書の送付を受けているが、原告は、右各書類受領後も、本件各取引につき苦情や異議の申立てをしていないこと、原告自身、右残高照合通知書に対する回答書に「ゼンチクワラン」なる文字を記入していることが認められ、右事情を総合すると前記甲三の記載部分及び原告の供述部分はにわかに信用できず、他に原告の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると原告のこの点に関する主張は理由がない。
四 原告の詐欺取消の主張について
原告は、安藤が本件各取引に際し、原告に対し、右各取引の商品がワラントではなく一種の株式であるように告げて原告を欺き、その旨誤信させた旨主張し、甲三の記載及び原告本人尋問の結果中には右主張にそう記載及び供述部分が存するが、前記三で認めたのと同じ事情を総合するとこの点に関する甲三の記載部分及び原告の供述部分はにわかに信用できず、他に原告の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると原告のこの点に関する主張も理由がない。
五 原告の不法行為(債務不履行)の主張について
原告は、請求原因4(1)①、②のとおり安藤の原告に対する説明義務違反及び断定的判断の提供の事実を指摘して被告会社の勧誘行為の違法性を主張する。
ところで、ワラントに限らず、こうした投資には多かれ少なかれ危険が伴うことは健全な常識を備えた人なら理解していることであるというべきであるから、証券会社においてことさら証券投資に関する知識、経験に乏しい相手方の無知に乗じて十分な情報を伝えないで執拗に勧誘したりするなどの行為が許されないことはもとよりであるが、だからといって証券会社にワラントにつき一般的に詳細な説明義務があるとは考え難く、当該勧誘行為の違法性は、当該取引の勧誘の方法(投資家が当該取引に伴う危険性について的確な認識形成を行うのを妨げるような虚偽の情報又は断定的判断等を提供してはならないことはもちろんである)、程度、投資家の職業、年齢、財産状態、投資経験、投資傾向その他当該取引がなされた具体的状況によって判断すべきであるというべきである。
これを本件についてみると、前記二の認定事実によれば、原告は、被告と証券取引を行う以前に、他の証券会社との間で大規模な証券取引(信用取引を含む)を行ってきたものであり、被告との取引を開始して以後も、本件各ワラントについての本件各取引を行うまでに多数回にわたり多額の取引を行っており、投資についてはかなりの経験を有していたということができ、その学歴、職業、さらには自ら安藤に対し毎日のように電話して株価や市場の動きに関心を寄せるなどしていたことから窺われる原告の投資姿勢に照らしても、原告において一般的な証券投資の危険性等についてはある程度理解していたものであるということができること、安藤は、原告とのワラント取引を開始するに当たり、原告に対し、メモに書きながらワラントの値の動き方、行使価格等について一応の口頭の説明した上で、後に読むように言って本件説明書(乙一)を交付しているが、原告の学歴、職業、投資経験に、右説明書はさして大部のものでもなく、重要部分に下線を引くなどして注意を喚起しており、投資家がワラント取引の危険性等を理解するために必要な必要最低限の情報が得られるような内容になっていることを併せ考えると、安藤の右説明方法は原告に対するものとしては一応合理的なものといえること、また安藤は、各ワラントの取引の都度原告に対し、その行使価格、行使期間等の説明をしていること、原告自身安藤はなんでもかんでも取引を押売りするタイプではないと思っていたが、本件各ワラントの取引においても安藤が原告に対し通常のいわゆるセールストークの域を越えて断定的判断と評価すべき情報を提供したことを窺うことはできないこと、確かに本件各ワラントについての本件各取引は合計五〇〇〇万円弱にのぼる多額な取引ではあるが、原告は年間の売上が一億円を越える病院を経営する医師であり、他にも被告との間に頻繁かつ多額の取引を行っていたことも考え併せると、右各取引が原告の右資産状況等に照らして過大な危険を伴った取引であったとまではいいにくいこと等の事情が認められ、右諸事情を総合すると、安藤が原告に対し説明義務に違反する行為を行ったとか断定的判断を提供したとかという私法上違法な勧誘行為を行ったものとは認められず、他に原告主張の安藤の違法行為の事実を認めるに足りる証拠はない。
なお、原告は、請求原因4(3)の事実を主張し、その主張は必ずしも明らかではないが、被告において原告に虚偽の事実を告知して原告を錯誤に陥らせ無効な契約を締結させたことを認めるに足りる証拠がないことは前記三で述べたとおりであるから、この点に関する原告の主張は理由がない。
そうすると、その余について判断するまでもなく、原告の不法行為(債務不履行)の主張は理由がない。
六 よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 植屋伸一)
別紙藤岡久の株式等売買取引一覧表<省略>